2011年2月20日

馳星周、桐野夏生らによる伊坂幸太郎評 〜「オーデュボンの祈り(単行本)」

Book Offさん、ありがとう

半年以上前の話だけど、ふと思い出したので書いてみたい。

「オーデュボンの祈り」という作品をご存知だろうか。新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した伊坂幸太郎のデビュー作である。

伊坂幸太郎が大きく注目されるようになったのは次作の「ラッシュライフ」からであり、「オーデュボンの祈り」単行本刊行当時にはそれほど大きな評判を得たというわけではなかったようだ。もちろん伊坂幸太郎はその後人気作家となり、「オーデュボンの祈り」も文庫化された。読んだことのある人も多いだろう。

人気を得る前の作品ということで、単行本自体の発行部数はそれほど多くないため、かなりのプレミアがついている。例えばAmazonでの中古品販売価格は現在¥14,750。
オーデュボンの祈り (新潮ミステリー倶楽部)オーデュボンの祈り (新潮文庫)
そんな「オーデュボンの祈り」単行本がBook Offに売ってたので買った。¥1,000(ぐらいだったはず)。

いいんすか、Book Offさん。

文庫本は持ってるし、単行本も俺の本棚である図書館においてあるので、さらっと読んだあと、売ってしまうことにした。

ヤフオクとかは面倒なので、eBOOKOFFの「ポストにポン買取コース」を使ってみた。「ポストにポン買取コース」は高額買取商品のみが対象で、1冊からでも郵送すれば買い取ってくれるというもの。「オーデュボンの祈り」単行本の場合、当時は¥9,800での買い取りだった。

せどり屋さんが携帯片手にBook Offでがんばってる意味が分かった。たまにこんなお宝が眠っていることもあるんですね。

単行本のみの特典

単行本には新潮ミステリー倶楽部賞の寸評が載っており、これが結構面白かった。売っちゃう前に書いたメモが残っていたので、伊坂幸太郎について言及されている部分を少しずつ引用したい。

乃南アサ
伊坂幸太郎さんの「オーデュボンの祈り」は「DOG」同様、やはり日本から認められていない、不思議な島の物語。文章には欠点も目立ったが読みやすく、発想とともにイメージしやすい。展開される世界は不思議、奇妙で、それが最大の魅力ではあるのだが、全体に優しい雰囲気に満ちて、ふんわりとした印象の中で、筆者が狙った「リアリティの欠如」が、さほど強烈に生きておらず、島の奇妙さ、不思議さというものはあまり感じられないのが残念ではある。

〜中略〜

このような、ある種ファンタジーのような色合いのある物語は大好きである。ただ、そのためには逆にディティールにこだわり、ありようのない世界をあるように見せる工夫が必要だと思う。その点が、文章の独りよがり的な甘さとともに、物語をただフワフワとした印象のものに終始させてしまった。こういう世界を描ける方には、今後、もっと立体的な想像力を働かせていただきたい。

奥泉光
最終選考に残った四作品のなかで、伊坂幸太郎氏の「オーデュボンの祈り」が、もっとも小説らしい小説であると、ぼくは評価し、推した。そもそも小説とはそれが何であるかを名指しできない何かなのであり、「これはいったい何なんだろう?」と思わせるものこそが最も小説の理想に近いといえる。「オーデュボンの祈り」が小説らしいとは、簡潔にいえば、そのような意味である。選考会の場では、作品のあまりの馬鹿馬鹿しさが各選考委員から指摘された。ぼくも指摘した。だって、言葉を喋るカカシがいて、なぜ喋るのかといえば、頭部に巣くう虫が脳のシナプスみたいな働きをしているなんて説明されても、困るじゃないですか。けれども、この作品について議論するとき、選考委員は全員が笑っていたのであり、一番いきいきとしていた。これは、つまり、面白いということである。

「オーデュボンの祈り」が他と比較して成功した理由は、作者が自己のスタイルについて一番考えていたからだと思われる。自分の選んだスタイルにふさわしい物語や構成や細部を、伊坂氏はわりと丹念に積み重ねているので、作者の意外に冷静な企みがあることにも気づかされる。その意味で注文をつけるなら、もっともっと企みが欲しい。これでは馬鹿馬鹿しさはまだ不足だ。もっと企むことで、馬鹿馬鹿しさはさらに深まり、やがて凄みを帯びるところまでいったら、大傑作となるだろう。

馳星周
受賞作の「オーデュボンの祈り」もまた、異世界を舞台にした物語である。が、こちらは「DOG」とは正反対のアプローチ。一読、「なんだこれは?」と声をあげた。わたしに声をあげさせた時点で、作者の勝ちだ。物語―特にミステリとしては多くの欠陥を孕みながら、しかし、最後まで読む手をとめさせなかったのは、だれも書かなかったものを書きたいという、この作者の真摯な思いが溢れているからでもある。わたしは他の選考委員の御三氏に比べて、ひねくれ方、狭量さなどが突出している。どんな作品に対しても評価点数は低くなる傾向にあり、この作品も例外ではなかったのだが、受賞作に推すことに異論はなかった。

桐野夏生
受賞作「オーデュボンの祈り」は、奇妙な作品だった。ファンタジックな設定に対し、冷酷ともいえる人物たち。警句や比喩の多用。あたかも、その場しのぎのような想像力の枝葉があちこちに伸び、いつの間にか読み進んでしまう。確かにオリジナリティは一番である。だが、様々な小説的企みが窺えるのに比して、失礼ながら、あまりにも表現が拙いということもこの作品の奇妙さのひとつではある。素っ気なさと繰り返しが目立つ文章。「寸止め」。これは手法と言えるものではなく、練り込みも推敲も足りないせいだと思われる。より良い作品にするためには難所を相当数乗り越えねばならない。その意志や強さが、私にはあまり感じられなかった。とはいえ、この作品は奇想天外で楽しい。受賞に異論はない。誰にも書けない小説を書いていただきたいと思う。

内容も加筆修正されているので伊坂幸太郎マニアの人は図書館か古本屋で探してみてください。

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