2009年5月30日

空気(について書かれた本)を読む ~「関係の空気」「場の空気」

「関係の空気」 「場の空気」 (講談社現代新書)
冷泉 彰彦
講談社
売り上げランキング: 14099

空気を読む前に本を読め

空気を読むことを半ば強制される昨今の風潮ですが、そもそも「空気」って何?という方にぜひ読んでみてもらいたいのがこの本。

「関係の空気」と「場の空気」

筆者は、一対一の関係における空気を「関係の空気」、三人以上の場における空気を「場の空気」と定義している。


「関係の空気」

「関係の空気」とは、表面的な会話には出てこないが会話の重要な要素として話し手と聞き手の間で共有されている情報、つまり会話に直接出てこない価値観や過去の経緯など言外の情報である。「関係の空気」とは一対一の関係性そのものであるともいえる。

個別の一対一の会話においては、日本語はこの「関係の空気」を利用することでコミュニケーションの質を確保してきた。

そもそも日本語はコミュニケーションのツールとして、過剰な性能を持っている。

不要な部分をそぎ落とし、省略表現をすることで、豊かなニュアンスを伝える機能。
敬語や、性別の話法などで、関係性の役割を規定し、そこから表現を「外す」ことで多様なニュアンスを付加する機能。

しかし、日本語が本来の性能を発揮するには前提がある。
価値観や常識といった情報、つまり「関係の空気」が話し手と聞き手の間で共有されているという前提である。この前提が崩れたとき、日本語は本来の性能を発揮できなくなり、「日本語の窒息」ともいうべき状況に陥ってしまう。

話が通じない…
会話が途切れる…
ついには一対一の関係が成り立たなくなってしまう…

社会の複雑化と価値観の多様化により「関係の空気」が欠乏し窒息状態に陥っていることこそが、上司と部下、教師と生徒、親と子供などの間のディスコミュニケーションを生み出してしまっている、と筆者は言う。

「場の空気」

対して、「場の空気」はどうか?

「関係の空気」が欠乏しているのに対して「場の空気」はますます猛威を振るっている。

国際関係、少子化、高齢化、年金…。
論点のそれぞれは深刻なのに、激しい対立も無ければ現実的な妥協も無い、それでいてなんとなく何かが決まっていく、あるいは先送りされていく。そこでは「場の空気」がすべてを支配しているといえる。論理や事実ではなく「場の空気」が意思決定の主役になり、またその「場の空気」が風向きの変化によってころころ変わってしまう。

郵政民営化選挙での自民党の圧勝、先の参議院選挙での民主党の大勝などは、まさに「場の空気」が日本を支配していることを示しているだろう。

山本七平は、編集者とトラブルになり「うちの編集部はそんな話を持ち出せる空気じゃありません」と断られたときの経験を元に「場の空気」についてこう書いている。

彼(編集者)はなにやらわからぬ「空気」に、自らの意思決定を拘束されている。いわば彼を支配しているのは、今までの議論の結果出てきた結論ではなく、その「空気」なるものであって、人が空気から逃れられない如く、彼はそれから自由になれない。
したがって、彼が結論を採用する場合も、それは論理的結果としてでなく、「空気」に適合するからである。

採否は「空気」が決める。

したがって「空気だ」と言われて拒否された場合、こちらにはもう反論の方法は無い。人は、空気を相手に議論するわけにはいかないからである。



日本には「抗空気罪」という罪があり、これに反すると最も軽くて「村八分」刑に処される。「空気」とはまことに大きな絶対権をもった妖怪である。

一対一の会話においては必要とされる「空気(関係の空気)」が、三人以上の集団の中(場の空気)では妖怪のようなものになってしまうというのである。

「場の空気」は「関係の空気」と何が違うのか?

そもそも「空気」を作り出すのは、多くの場合は省略表現、指示代名詞、略語、ニックネームなどの「暗号」である。暗号を使った会話には、暗号化と復元をするために必要な暗黙の共通理解があり、暗号化をすることが「共通の理解をもっている」ことの確認になる。一対一の場合は仮に暗号がうまく復元できなくても、相手に聞き返すのはそれほど難しくない。しかし、大勢の集団の中では「暗号」が分からなくて聞き返してしまうような人間には「抗空気罪」が適用されてしまう。
「分からないといけない」という強迫観念、さらには「それが正しい」という強制と「反対するヤツは許さない」という攻撃性まで備えた「空気」が醸成されることになる。
こうなると「場の空気」はある種の権力になる。「空気」が「妖怪」のようにその場を支配し、「空気」に対して人々が抵抗できなくなってしまうのである…。


右派左派などの話ははっきり言って蛇足ですが、「空気」というものを深く解説した良書です。

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